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熊本地方裁判所 昭和48年(行ウ)2号 判決

原告 田代実

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 竹中敏彦

同 千場茂勝

被告 護藤土地改良区

右代表者理事長 田上良香

右訴訟代理人弁護士 柴田憲保

同 舞田邦彦

被告訴訟代理人弁護士亡條原一男訴訟復代理人弁護士 河津和明

同 斉藤修

主文

1  被告が、昭和四八年三月九日付でした原告田代実に対する別紙(一)の「従前の土地」欄記載の土地に対する換地として同別紙の「換地」欄記載の土地を指定した処分を取消す。

2  原告吉村辰男の被告に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は、原告田代実と被告との間においては、全部被告の負担とし、原告吉村辰男と被告との間においては、被告に生じた費用の二分の一を原告吉村辰男の負担とし、その余は各自の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和四八年三月九日付でした原告田代実に対する、別紙(一)の「従前の土地」欄記載の土地に対する換地として同別紙の「換地」欄記載の土地を指定した処分を取消す。

2  被告は原告吉村辰男に対し金三四〇万円及びこれに対する昭和五五年四月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は昭和四八年三月九日付で、原告田代実(以下「原告田代」という。)に対し、別紙(一)の「従前の土地」欄記載の土地に対する換地として同別紙の「換地」欄記載の土地を、原告吉村辰男(以下「原告吉村」という。)に対し別紙(二)、(三)、(四)の各「従前の土地」欄記載の土地に対する換地として同別紙の各「換地」欄記載の土地をそれぞれ指定する処分(以下「本件換地処分」という。)をした(なお別紙(二)、(三)、(四)記載の従前の土地についての換地処分の名宛人はそれぞれ亡吉村辰治、亡吉村勇平、亡吉村一男となっているが、これらはいずれも本件換地処分当時相続により右各土地の所有者となっていた原告吉村に対してなされたものである。)。

2  本件換地処分において被告がそれぞれ従前の土地につき実質的な対応関係に基づかないでそれぞれの換地を指定したのは違法である。

本件換地処分における実質的な対応関係が被告の主張(後記二3参照)どおりであるならば、これは原告らに対する換地処分通知書添付の各筆換地等明細書(以下「換地等明細書」という。)に記載された対応関係(内容は前記1記載のとおり)とは異なるものであり、原告らに対する換地の指定は実質的な対応関係に基づいていないこととなる。

換地処分は数筆の従前の土地につき数筆の換地を一括指定するものではなく、各個の従前の土地につきそれぞれの換地を指定するものであって、各個の従前の土地とこれに対する換地は個別に照応の原則に適合しなければならないから、被告の主張するような方法による換地処分は違法である。

3  本件換地処分のうち、原告田代に対し、一枚続きの田であった従前の土地熊本県飽託郡飽田町字長田一七四〇番一畑四〇九m2(以下、土地についてはいずれも字と地番のみで表示する。)、同番二に対する換地として、字小森一四二九番、字長田一七三一番一を、原告吉村に対し、一枚続きの畑であった従前の土地字戸崎一九一八番、同一九一九番、同一九二〇番に対する換地として字戸崎一九三三番と字小森一四三一番をそれぞれ指定した処分は土地改良法(以下「法」という。)五三条六項に違反している。

なお右対応関係は前記換地等明細書の記載に基づくものである、被告は実質的な対応関係は異なる旨(後記二3参照)主張するが、右実質的な対応関係なるものは本件訴え提起後数年を経た昭和五五年に至って初めて明らかにされたものであって、被告は原告らに対する前記換地処分が法五三条六項に違反することが明白なため、これをカバーすべく作出されたものである。

4  本件換地処分は法五三条一項二号所定の照応の原則に違反してなされたものである。前記2のとおり各個の従前の土地とこれに対する換地の間で個別に照応関係が認められなければならないのであって、一人の所有者につきその従前の土地全部と換地全部が全体として照応していればよいというものではないが、本件換地処分は、各原告ごとに全体としても、以下のとおり照応の原則に違反している。

(一) 原告田代について

(1) 換地字菰堀一五六六番(従前の土地字戸崎二〇六三番)

原告田代が希望した土地ではなく、従前の土地が宅地化可能な土地であったのに苗代田として換地された。

用水路が遠く、低地なため苗代田として利用できず、宅地化するにしても狭く(面積は四九五m2から二九二m2となり減歩率も著しい。)、小川をはさんで道路に接し、宅地としての利用価値は低い(なお右小川に架橋されたのは本訴提起後である。)。

(2) 換地字小森一四二九番(従前の土地字長田一七四〇番一)

従前の土地は同番二と接続した一枚田(苗代田)であったがこれを畑に換地した。

本件換地は北側の道路より低く冠水しやすいため畑としては不適であるので田として使用しているが、用水路がないため、道路の向こうにある排水路から引水する必要があり、モーター設置、パイプの設置取外しなど不便きわまりない。

(3) 換地字戸崎一九九九番(従前の土地字小森一四六七番)

従前の土地は上畑であったが水田を換地された。

不整形(台形)であるので、田植その他全ての農作業に不便である。

苗代田として使用しているが、苗代田としての使用を中止しても二毛作を可能にするためには暗渠を設置しなければならない。

(4) 換地字長田一七三一番一(従前の土地字馬渡一七七四番)

従前の土地は縦が六〇mもあり用排水路があり野菜もできる二毛作可能な上田であった。本件換地は原告が希望した土地ではなく、用水路がないので、田として利用する場合、約六〇mの用水路及び電動揚水機の設置が必要である。

(5) 換地字長田一七三一番二(従前の土地字馬渡一八〇七番)

従前の土地は畑として利用していたのであり、別紙(一)の同地の用途を田としている記載は誤っている。従前の土地には大根を植えていたのに被告はこれを断りなくブルドーザーで押し大根は当番の者が持っていってしまった。また従前の土地は実測約四〇m2あったが換地は実測一九m2しかない。

その他は(4)で述べたと同様である。

(6) 換地字長田一七三一番三(従前の土地字長田一七四〇番二、但し原告田代に交付された換地等明細書には本件換地の記載がないが面積等比較して従前の土地に対する換地が字長田一七三一番三であるものとして論ずる。)

従前の土地は上等な苗代田であったが本件換地は湿田であり、暗渠を作らざるを得なくなった、その他(4)で述べたと同様である。

(7) 換地字小森一四三〇番(従前の土地字小森一四四八番、一四四九ないし一四五一番)

従前の土地は原告吉村から賃借していたが、被告の換地委員長であった区長の沢田一馬は土地改良事業から除外すると言っていたので鉄骨連棟ハウスを建築していたところ被告はこれを無断で撤去し、土地改良事業の対象としてしまった。本件換地は湿田であったので被告が土盛をして畑にしたが、この土の中に石が混入しており三年余の月日をかけて石を除き表土を持ってきて漸く一毛田になったものである。

(8) 原告田代の従前の土地のうち地目田の合計は一六五二m2、地目畑は二二二一m2であったのに対し、本件換地により、地目田は二四九五m2、地目畑は一三二一m2となったうえ、畑として換地された土地は畑に適せず、かつ面積も狭くなったので、同原告としては田として換地を受けた分の一部を畑として利用することとなったが、畑として利用するためには用水路がなく不便であり、電動揚水機の設置が必要であった。

(二) 原告吉村について

(1) 換地字戸崎一九六〇番(従前の土地字長田一七三五番)

従前の土地は字長田にあり、護藤地区で最もよい土地は字長田であり、誰もが字長田への換地を望んでいたのに、原告吉村は本件換地処分により本件従前の土地と一枚田であった字長田一七三四番とともに奪われた。しかもこの一枚の田が字戸崎一九六〇番、同一七九三番と分散して換地されたのである。

(2) 換地字戸崎一九四〇番(従前の土地字戸崎二〇四二番一)

従前の土地は県道沿いにあったのに県道から二枚目にずらされた。これに対し換地委員である訴外西田良磨に対しては県道沿いの従前の土地字戸崎二〇四四番一を字戸崎一九九一番に換地し、その面積を三五〇m2から五〇四m2に増加させた。面積を増加させるなら二枚目以下に下げて換地すべきである。原告吉村に対してはその見返りとして字戸崎一九九四を換地したが狭くて宅地化しにくいうえ、集団化に反するものである。

(3) 換地字戸崎一七九三番(従前の土地字長田一七三四番)

従前の土地については(1)で述べたとおりで、湿田ではなく、誰もが欲しがる上田であった。

本件換地一帯は東が高く、西が低い地形であるため東側の排水溝は役に立たず、原告吉村は本件換地の西側道路を隔てて存在する用排水路に排水する設備を施す必要があった。また一辺が一〇〇mを超える細長い地形で作業に不便である。

(4) 換地字戸崎一九一七番(従前の土地字戸崎一九四九番、同一九五〇番、同一九七六番、同一九八七番、字上屋敷二一五五番)

本件換地処分の目的が集団化であるならば、(3)記載の換地と本件換地は同じ箇所に指定さるべきであった。いずれの換地も一辺が一〇〇mを超え細長いため作業に不便である。字戸崎内の一辺か一〇〇mを超える長方形の田の中では本件換地が一番幅が狭い。しかも字戸崎内に二枚以上の田を所有する者には大体において隣接させて換地している。

5  本件換地処分によって原告田代の従前の土地五団地については四団地の換地が、原告吉村の従前の土地九団地については七団地の換地が、しかも分散されて指定されており、土地改良事業の目的の一つである集団化(法一条一項参照)は実現されず、本件換地処分は法一条一項に違反している。

6  本件換地処分は公平の原則に反してなされた違法なものである。

被告役員はその地位を利用して、自己、その親族又は部落の有力者の従前の土地につき、不当に高位に評定し、その換地につき不当に低位に評定し、あるいは従前の土地の地積を水増しするなどして不公平な換地処分をさせ、被告役員は原告ら一般組合員に比し、不当な利益を享受し、一方原告ら一般組合員は不当な不利益を受けている。

また、前記のとおり原告らの換地は集団化していないのに対し、被告の役員らの換地は集団化しており、この点でも原告らは被告の役員らに比し不当な不利益を受けている。

例えば、訴外農業生産法人清田農事は、その代表者清田政信が換地委員であったが、等位評定にあたり有利な評定をうけ、従前の土地七団地が換地一団地となった。訴外高野繁は換地委員であった土原正人の親族であるが、等位評定にあたり有利な評定をうけ、従前の土地八団地が換地五団地となった。訴外清田政和は前記訴外清田政信の甥であるが、従前の土地八団地が換地四団地となった。訴外西田良磨は換地委員であったが従前の土地一〇団地が換地六団地となった。訴外田上正は換地委員であったが、従前の土地一〇団地が換地五団地となった。訴外土原正人は換地委員であったが、従前の土地四団地が換地三団地となった。訴外楠又男は換地委員であったが、従前の土地七団地が換地四団地となった。

7  本件換地処分により原告吉村の受けた経済的精神的苦痛は甚大であるが、経済的損失については評価がきわめて困難であるため、慰藉料として金三〇〇万円に評価するのを相当とし、本件解決のため要する弁護士費用として金四〇万円を請求する。

なお、右損害賠償請求の根拠は債務の不完全履行である。

よって原告田代は被告に対し、被告が昭和四八年三月九日付でした原告田代に対する、別紙目録(一)「従前の土地」欄記載の土地の換地として同「換地」欄記載の土地を指定した処分の取消を、原告吉村は、被告に対し、債務不履行に基づき損害賠償金三四〇万円及びこれに対する昭和五五年四月一六日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実を認める。

2  同2につき争う。

同一所有者に属する従前の土地と換地との組み合わせについては、従前の土地に制限物権の設定等がない場合には、一筆ごとに個別に照応の原則を満たしている必要はなく、従前の土地全部と換地全部とを総合的にみて照応関係が認められれば足りるから被告の行った本件換地処分は適法である。

3  同4につき争う。

全体的な諸事情を総合勘案して本件換地処分がなされたものであり、特定の人あるいは特定の土地についての部分的比較によって論ずべきものではない。

原告らの従前の土地と換地との実質的対応関係は別紙1、2記載のとおりである。

4  同5ないし7につき争う。

三  本件換地処分の適法性

土地改良事業においては各個の従前地とこれに対応する換地が個別に照応の原則に適合する必要はなく、同一所有者に対する従前地全部と、同人に対する換地全部が総合的にみて照応関係にあればよいこと前述したとおりであるが、原告らに対する本件換地処分は以下述べるとおり、個別的にみても対応の原則を満たしており、原告らの主張は理由がない。

1  本件土地改良事業(以下「本件事業」という。)に際しては、以下のとおり原則的な基準が定められていた。

(一) 道路関係

従前地が県道に接する場合は、原則として県道沿いに換地する。

但し、字戸崎の苗代田の換地に際しては、従前が四割(四区分)になっていたところ、換地は三割(三区分)としたため県道沿いの従前地所有地のうち一名は県道沿いに換地されなくなったこと後述のとおりである。

(二) 苗代田

苗代田については特別な扱いをし、県道より北と南に二分し、北に位置する字小森が菰堀地区の苗代田は全て字小森の西側一区画に二割(一四八九番一ないし一四九七番二と一四九九番一ないし一五四七番)として、南に位置する字戸崎(含旧字馬渡)、長田地区の苗代田は全て字戸崎の一区画に三割(一九三八番ないし一九五七番、一九八〇番ないし一九九一番、一九九四番ないし二〇〇九番)として、それぞれ換地することとした。

(三) 田・畑地帯

字小森・菰堀の畑は原則として字小森か字菰堀の内で換地する。

他方、字長田・戸崎・馬渡の畑は字戸崎に集中して換地する。ただし字長田の田は原則として字長田に換地をするが、道路、用排水路、区画等の設置のため、同字内に小面積の耕地しか所有せず、他字に大部分の耕地を所有する者や一反未満の小規模農家については他字に換地した例もある。

(四) 小規模農家の土地の取扱い

字戸崎、長田内の従前地の耕作面積が一反未満の小規模農家の耕地は、字戸崎、長田のほぼ中央を東西に走る幹線道路(以下「東西の幹線道路」という。)沿いに縦割りに換地する。

これは土地改良事業についての国の標準区画が三〇a区画(短辺三〇m、長辺一〇〇m)であるため、一〇a(一反)未満の場合は短辺が一〇m以下となって細長い耕地となることから耕作の便を考慮し縦割としたものである。

2  原告田代の換地について

(一) 字菰堀一五六六番

本件換地は原告田代の希望により将来子息の宅地として利用できる土地ということで特別に換地した。

従って、四mの舗装道路に接するよう架橋し、地形もほぼ整形で宅地としては申し分のない土地であって、現に四周は次第に宅地化され、その価格も宅地として評価される土地である。

しかも、北側隣接地(水田)から水を引く、あるいは排水路の水を揚水するなどすれば、田として利用することも可能であり、現に北・東側隣接地は水田として利用されている。

いずれにしても現在荒地となっているのは原告田代に耕作する意思がないためであって、耕作しようと思えば二毛作も可能である。

更に原告田代は、現在字戸崎一九九九番で苗代を作っており、同原告の水稲耕地面積からいえば、右戸崎の苗代田で必要十分であって、右以外の所で苗代を作る必要はない。

(二) 字小森一四二九番

本件換地は原告田代が原告吉村から借受け耕作している字小森一四三〇番に接するよう配慮して換地されたもので、排水路が完備し、四m道路に接する耕作に便利な上畑である。

ところが、原告田代はこれを水田として現在利用し、用水路がなく、苗代田にできないと主張するが、もともと本件換地は苗代田地区でなく畑地として換地したものであって、用水の便は考慮していない。

被告は本件換地処分につき全体的に畑と田・苗代に区画を分け、それぞれ換地したが、これに従わず、畑を田として利用する以上、その不便は原告田代において受忍すべきである。

(三) 字戸崎一九九九番

本件換地は苗代田であり、地形はやや不整形で台形に近いが三角田ではない。

原告田代が苗代田としての利用をやめれば二毛作は可能である。

用・排水路及び東側に農道がついた上田であり、原告田代が苗代田として利用していた従前地字戸崎二〇六三番とほぼ同位置に換地した。

(四) 字長田一七三一番一、同番二、同番三

本件換地は原告田代の希望によりハウス栽培の適地として換地したものである。

従って、用水よりも排水が重要なため、特に排水路に接する場所を換地し、畑作業の便宜のため縦割としたものであり、三筆が一団となるよう集団化も図った。

畑作の場合は、用水は不要であり、仮に水田として利用するのであれば、西側隣接地の水田(畦畔がない。)より用水が可能である。現在原告田代が右西側隣接地からの浸水を防ぐため自ら防水処理をしているところからみても用水が可能であることは明白である(右西側隣接地の田も直接用水路には接していないが、その西側隣接田から用水している。)。

暗渠は原告田代のハウス栽培に必要なため特に原告田代が設けたものであって、水田として利用するなら不要である。

ハウス栽培を行っている者は、排水を良くするため全て暗渠を設けるのであって、本件換地が湿田であったため必要となった訳ではなく、本件換地処分により設置をやむなくされたとの主張はあたらない。

(五) 賃借地字小森一四三〇番

本件換地は原告吉村の所有地であるが、原告田代所有の字小森一四二九番に接するよう配慮して換地したもので、現在水田として利用されている。

しかし、本件換地は元来畑であって、近隣も畑作を行っているところ、原告田代が換地後水田にしたものであり、本件換地処分時はもちろん、現在も湿田ではない。

以上要するに原告田代の各換地に対する不満は主として湿田になったため二毛作ができないというものであるが、字戸崎の苗代田は苗代田として利用する以上時期的にも二毛作は不可能であること、同原告が供述するとおりであり、ビニールハウスを造ってナスを年中栽培する字長田の畑で二毛作が不可能なことはいうまでもない。また字小森では現に二毛作を行っており、字菰堀に至っては耕作の意思がない結果である。

3  原告吉村の換地について

(一) 字戸崎一九六〇番

字戸崎の畑は一か所に畑地帯として集団化するため本件換地がなされた。

従前の土地であった字戸崎一九七三番、一九七六番に比較すると本件換地の東側には農道があり、通作距離も近く耕作に便利となった。

(二) 字戸崎一九四〇番

本件換地は苗代田である。従前の苗代田は県道に接して四割(四区分)であって、原告吉村の苗代田も県道に接していたが、本件事業の結果、三割(三区分)となったため本件換地は県道に接しないこととなった。

その理由は、原告吉村の従前の土地は昭和四一年の前換地の際初めて県道に接するようになったのに対し、他三名のうち二名の従前の土地は前換地以前から県道に接しており、残る一名も大幅な減歩のうえ前換地を県道沿いにした経緯があるところから、公平を期するため、原告吉村の換地として県道から二枚目の土地を指定したためであり、原告吉村に対しては、この不利益を補うため、字戸崎一九九四番を県道沿いに換地した。

(三) 字戸崎一七九三番

本件換地は標準区画であるため長辺一〇〇mであるが、これは1で述べたとおり苗代田、畑、県道沿い、小規模農家以外は皆同一条件であって原告吉村だけが右のような扱いをうけたわけではない。

本件換地の東側は排水路が、西側には用水路、道路を隔ててその西に排水路があり、通作、用排水の便もよい。なお本件換地付近は従前から多少湿田の傾向があったが暗渠設置により解消された。

本件換地の東半分は従前の土地一五八七番と同位置である。換地によって従前の土地の土質、乾湿が一挙に改善されるものではないことは言うまでもない。

大雨により冠水するという事実はなく、現に北側隣接地ではハウス栽培を行っている。

仮に冠水するとしても本件換地付近が本件事業対象地のうち最も低い場所に該ることからやむを得ないことであり、従前の土地より悪くなったということではない。

(四) 字戸崎一九一七番

本件換地は、従前の土地字戸崎一九四九番、同一九五〇番とほぼ同位置にあり、土質等は従前の土地と同様である。本件換地は最もよく集団化されている。

その余の点については、本件換地が前項記載の字戸崎一七九三番の北方に位置するので同項で述べたところと同様である。

(五) 字小森一四三〇番、同一四三一番

右二筆は隣接しており従前の土地(字小森一四三〇番、一四四八ないし一四五一番、二一五五番)の三団地が集団化された。なおうち一四三〇番は原告田代に賃貸している。

(六) 字戸崎一九九四番

本件換地は県道に接し、地形上からいっても宅地化が可能で店舗等の営業にも適する土地である。

本件換地は前記(二)の苗代田を県道から二枚目に下げたことと、総換地面積(七一二七m2)が、従前の土地総面積(七四二七m2)に比し減歩が大きくなったため特に配分したものである。

この結果、原告吉村に対する換地総面積は七三七四m2となった。

(七) 字戸崎一九三三番

本件換地は従前の土地と同位置で、本件事業に際し道路を設けたため、東と南側で四m道路に沿うようになり、将来の宅地化も可能である。

要するに原告吉村の本件換地処分に対する不満は、県道沿いの苗代田を二枚目に下げたことと、字戸崎の湿田についてであるが、苗代田は四割が三割となった結果であり、その経緯は前記(二)のとおりであり、その対応も十分なされており、湿田については従前の土地自体がやや湿田の傾向にあったものであり、換地処分によって湿田になったわけではない。

4  原告両名の土地の集団化について

従前の土地各筆が同一字内に存するか否か、分散しているか否か、また各筆が田か畑か、その他前記1記載の各約束事項により集団化の難易が異なる。

従前の土地の状況を無視して単に従前の団地数と換地の団地数を比較することによっては集団化の度合を判断することはできない。

(一) 原告田代の場合

従前の土地五団地が換地により四団地となったがその内容は次のとおりである。

(1) 字小森一四六七番は字小森や字菰堀内でしか換地できず、原告田代所有田が両字内に他に存しないところから集団化できず、字戸崎二〇六三番は苗代田であり、他の田との集団化は不可能であった。

(2) 字長田一七四〇番一、二、字馬渡一七七四番、同一八〇七番に分散していた三団地は字長田一七三一番一ないし三の一団地となり最も良く集団化されている。

(3) 字菰堀一五六六番は、原告田代の宅地化希望に添うよう換地したもので、農地の集団化とは目的を異にし、実質的には団地数から除外すべきものである。

右のとおり、原告田代の従前の土地のうち集団化が可能な土地は(2)記載の三団地のみで、これが一団地に集団化され、集団化は十分なされている。実質的には五団地が三団地となったものであり、更に原告田代が賃借している字小森一四三〇番も原告田代所有地に隣接して換地したもので、他の二団地への通作の便も従前の土地と比して便利になっていることは明らかである。

(二) 原告吉村の場合

(1) 字小森一四三〇番、同一四四八番、同一四四九ないし一四五一番の三団地は、字小森一四三〇番、同一四三一番の一団地に集団化された(原告吉村は二団地と供述するが、明らかに一団地である。)。

(2) 字戸崎一九七三番、同一九七六番二団地は字戸崎の畑地帯に一筆として集団化された。字長田一七三四番、同一七三五番、字戸崎一九四九番、同一九五〇番の二団地は字戸崎一九一七番へ集団化された。

(3) 字戸崎の従前の土地一九八七番は付近に同人の従前の土地はなく現地に換地する以外なかった。

原告吉村は字戸崎一九一七番と合体して集団化する希望を持っていたが、そのためには東西の幹線道路を越えることになり、他に右幹線の北側に原告吉村の従前の土地一九八七番の面積に見合う耕地所有者が右幹線の南側に換地を希望しない限り実現不可能なことであり、通作に不便なこともあって、そのような希望者は皆無であった。

(4) 字戸崎二〇四二番一は苗代田であり、他と集団化できず、同一九四〇番に換地し、これが県道より二枚目に位置するところから、別に県道沿いの同一九九四番を換地したので結果的には従前の土地一団地が二団地に増えているが、これは前述した特殊事情によるもので集団化にもとるものではない。

右のとおり、原告吉村の従前の土地九団地のうち集団化可能なものは全て集団化されているのである。

第三証拠《省略》

理由

一  原告田代の請求について

被告が原告田代に対し、昭和四八年三月九日付で別紙(一)記載の「従前の土地欄」記載の土地に対する換地として同別紙の「換地」欄記載の土地を指定する処分をしたことは当事者間に争いがないところ、《証拠省略》によれば、別紙(一)の各筆換地等明細書が、原告田代に対する本件換地処分の通知に際し添付されていた「換地等明細書」であると認められる。

ところで土地改良法に基づく換地処分においては、「当該換地及び従前の土地について、省令の定めるところにより、それぞれその用途、地積、土性、水利、傾斜、温度その他の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、当該換地が、従前の土地に照応していること。」(法五三条一項二号)が要件とされている。

この点に関し、被告は照応関係は同一所有者に対する従前の土地全部と同人に対する換地全部が総合的に照応すればよいと主張し、被告に対し本件事案の指導をした熊本県土地改良事業団体連合会職員である証人石坂幸雄の証言によれば、本件事業においては一個人の農家の従前の土地の合計と換地を総合的に勘案して照応するように換地計画が定められ、一筆毎の照応関係は考慮せず、現に原告田代に交付された換地等明細書の記載の従前の土地及び換地は、個別的な対応関係を表示するものではないことが認められる。

右によれば本件においては、原告田代に対し、別紙(一)記載の「従前の土地」全部に対し、同別紙記載の「換地」全部を指定したものと解さざるを得ない。

そこで、土地改良法上右の如き換地指定の方法が許容されるものであるか否かについてみるに、結論的にいえば、かかる指定方法は、理論上は考えうるし、関係者全員に異論がなければ問題ないとしても、関係者の一部に異論がある以上は問題であって、従前の土地と換地との照応関係の吟味を通常人にとって極めて困難にさせるものであるから、法五三条一項二号の趣旨に照らし、許されないものであると解される。

すなわち、右同号にいう省令である土地改良法施行規則の四三条の六が「法五三条一項二号の規定による総合的な勘案は、当該換地及び従前の土地の用途及び地積並びに同号に掲げる事項に基づいて評定した当該換地及び従前の土地の等位についてしなければならない。」としていることや法一条をふまえれば、法五三条一項二号にいう「照応している」とは、当該換地と従前の土地とが、用途、地積、等位を総合勘案して、通常人が考えて大体同一条件にあると認められることを意味すると解されるところ、一筆の従前の土地に対し一筆の換地が指定される場合には右の総合的な勘案は通常人にとっても比較的簡単であり、数筆の従前の土地に対し一筆の換地が指定されることがあるのは集団化をその目的の一つとする土地改良事業(法一条一項参照)において当然であるし、この場合において従前の土地と換地との照応関係の総合的な判断は若干複雑ではあっても、通常人にとってその判断は十分可能であると解されるのに比し、数筆の従前の土地に対し数筆の換地が指定される原告田代に対する本件換地処分のような場合においては、用途、地積、等位の総合的な勘案を行うためには、通常人にとって極めて困難な判断を要求することとなるであろうことは、右総合が、用途と地積と等位のそれぞれの分析、比較、総合とを相互に繰り返し、積み上げていく作業を前提にしているところ、この前提の作業が極めて困難であることからも容易に理解することができる。そして、土地改良事業という、農業を営む者にとって基本的な財産である農用地に関する大がかりな、多数の通常人が関与する事業での、一斉に権利関係を移動させる換地処分において、換地の当否の検討が、右通常人にとって極めて困難な判断を要求されるとすれば、右事業によって関係農用地の権利者が蒙る不利益も大きく、法の所期の目的達成も困難になると思われるのである。なお、換地処分による登記の内容、手続を定めた土地改良登記令が、数筆の従前の土地に対し数筆の換地を指定する場合を規定していないのは、右のことを配慮しているからと解される。

また被告は原告田代の従前の土地と換地との実質的な対応関係は別紙1記載のとおりであり、原告田代に対する換地は個別的へ見ても照応している旨主張するのであるが、換地処分を受けた者に交付された換地等明細書に記載されたところと異なる実質的対応関係なるものを主張することが原則的に許されないことは、換地処分の効果として、換地は従前の土地とみなされること(法五四条の二)、前記のとおり各筆換地等明細書の対応関係をみながら、当該換地と従前の土地との照応関係が検討されること、各筆換地明細の定めが換地計画の重要な一項目として掲げられていること(法五二条の五)、各筆換地明細の様式が定められ、従前の土地と換地との対応関係の明示が要求されていること(土地改良法施行規則四三条の五)、土地改良登記令に基づく換地処分の登記はいずれも従前の土地の登記用紙を利用するのであって(同令一一ないし一六条等参照)、同令六条一項で定める換地処分による登記の申請書に記載すべき「従前の土地と換地の表示」は、換地計画書の内容である各筆換地明細を利用するのが実務の取扱いであること等に思いを致すと明らかである。そして、本件における別紙(一)の換地等明細書と被告が実質上の対応関係ありとして主張する別紙1の各内容を見ると、その相違ははなはだしく、原告田代の従前の土地に設定登記されていた抵当権の権利関係も、被告の右主張によれば、どのようになるのか全く見当がつかないものであるから、本件においては、このような被告の主張が例外的に許容される事情があるとも解されないし、当該事情を推認しうるに足りる証拠もない。

そうであれば、原告田代に対する本件換地処分が法五三条一項二号に適合しているということはできず、その余の点につき判断するまでもなく、原告田代に対する本件換地処分は違法であって取消を免れないものである。

二  原告吉村の請求について

原告吉村の被告に対する請求は債務の不完全履行に基づくものであることがその主張から明らかであるところ、同原告と被告との間にいかなる債権債務関係が存在したかについて、同原告は何ら主張しないし、その証拠もない。従って、同原告の被告に対する請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

三  よって原告田代の被告に対する請求は理由があるのでこれを認容し、原告吉村の被告に対する請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九二条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 弘重一明 裁判官 簑田孝行 丸地明子)

〈以下省略〉

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